日本で最初にパスポートを取得したのは、武士でも政府の関係者でもなく、曲芸師だった。
江戸幕府は1866年、条約を締結している国への渡航を、学業目的と商業目的に限り認めた。この際、パスポートの発行も決まった。パスポートを知らない当時の幕府は、海外のパスポートを借りるなどして研究。半年かけて完成に至った。
取得第1号は、曲芸団「日本帝国一座」の座長、隅田川浪五郎。また、第18号までを一座一行が占めている。一行はアメリカの興行主、リズレーに勧誘され、パリ万博に出演するため、まずアメリカに渡航した。
当時、パスポートの呼び名は定まっておらず、「印章」「印鑑」「旅7切手」「免状」などと呼ばれていた。日本でパスポートを指す「旅券」という名称が決まったのは、12年後の1878年のことだった。
当時のパスポートは、縦22.6cm、横31.8cmの1枚の厚い和紙で作られた賞状型のもの。年齢、身長のほか、写真がない代わりに「鼻高キ方」「面細長方」などの特徴が書かれていた。パスポートに写真が貼られるようになったのは1917年から。また、形が手帳型になったのは1926年からである。