アメリカ初代大統領、ジョージ・ワシントンは6歳のとき、もらった斧をどうしても試したくなり、ワシントンの父が大切にしていた桜の木を切ってしまう。翌日、父が問いただしたところ、ワシントンは自分から犯人であると正直に打ち明けた――。実はこれは全くの作り話である。
このエピソードは、アメリカの牧師、ロック・ウィームズが書いた、ワシントンの逸話を集めた本『逸話で綴るワシントンの生涯』に「立派な婦人」から聞いた「真実であることは疑いの余地がない話」として掲載されたことで広まった。本は1800年に初版が出版されたが、桜の木の逸話は1806年に出版された第5版から掲載されている。
「逸話は様々な文献を参考に書いたが、桜の木の逸話に関しては、売り上げを伸ばそうとして勝手にでっち上げて付け加えたもので、どの文献にも一切書かれていない」。ウィームズは正直に語った。さらに、本の中で自分のことを「マウント・バートン教区の牧師」と名乗っているが、実在しない教区だった。
同書は第5版で更に売り上げを伸ばし、ワシントンは正直な人というイメージが世間にすっかり定着した。ワシントンは確かに正直な人ではあったが、嘘の逸話により大げさに伝えられる結果となった。