狩猟が禁じられているタヌキを狩猟したとして逮捕された被告人が、狩猟したのはムジナであるとして、タヌキとムジナが同じ動物か争われた裁判がある。
「たぬき・むじな事件」と呼ばれ、司法関係者の間では刑法第38条に関する代表的な判例として知られる。同条は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定めている。
事件は1924年に栃木県で発生した。警察は、被告人が同年3月3日、洞穴に捕まえていたタヌキを狩猟したとして、3月以降のタヌキの狩猟を禁じた鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(狩猟法)違反の容疑で逮捕した。
これに対し被告人は、狩猟したのはタヌキではなくムジナであり、他の地域でも別の動物だと認識されていると主張。また、その日のうちに仕留めこそしなかったが、ムジナを洞窟の中に追い込んで唯一の出入口である洞穴を塞ぎ、逃げ出さないように確保した2月29日を狩猟日とするべきだとした。現在の最高裁判所にあたる大審院まで争われた。
下級審では、動物学上、タヌキとムジナは同一であり、また、狩猟日は実際に捕獲した3月3日であるとして被告人に有罪を言い渡した。
一方、大審院では下級審判決が覆された。動物学上、タヌキとムジナは同一であるが、この事実は専門家など知識のある人にしか認識されていなかったと認定。タヌキとムジナの名称は昔からあり、一般に二者を区別して呼ぶのは自然なことで、国は同法で「タヌキ」はムジナを包括した表現であることを明記する必要があったと指摘した。狩猟日については、占有のための行動を始めた2月29日であると認定。被告人に無罪を言い渡した。
似たような事件に、同年に高知県で発生した「むささび・もま事件」がある。その名の通り、狩猟が禁じられているムササビを狩猟したとして逮捕された被告人が、狩猟したのはモマであるとして、ムササビとモマが同じ動物か争われた。この事件では、モマは単なる方言にすぎず、一般にムササビとモマが別の動物であると認識されているわけではなかったため有罪とされた。